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読坂連続行方不明事件
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黄昏フォークロア

読坂連続行方不明事件〈三〉

 読坂市は、の大合併の折に輿市と平坂郡が合併して出来た市だ。輿高校は旧輿市側にあり、市の中心地——旧市街と呼ばれている地域——その近辺に建っている。
 淑緒が読坂市にやってくるときに降りた読坂駅は合併後に新設された駅で、旧輿市と旧平坂郡の境に位置する。近年はこの読坂駅を中心に開発が進められていて、こっちを新市街と呼んでいる。淑緒に拠点として割り当てられたアパートも、この新市街にある。
 旧市街から新市街は、直線距離で三キロほど。
 歩くには少し遠い。
 淑緒のように新市街に住んでいる生徒は、読坂駅から輿駅までの一駅、時間にして三分ほどの距離を電車で移動し、そこから輿高校まで十五分ほど歩いて通学している。輿駅までの道には、下校途中の生徒の姿がまばらに見える。読坂新市街や旧平坂方面から通う生徒もいれば、逆、つまり方面から通っている生徒もいるのだろう。
 いずれにせよ、帰るのなら彼らに続いて駅へ向かえばいい。が、淑緒にはすぐに帰る予定はない。淑緒は、まだこの街の地理に慣れていない。昨日引っ越してきたばかりだし、読坂駅前の施設くらいしか調べていない。それも調査のためというより生活のためだ。
 実質的な調査は、今日のこの放課後の時間から始まる。だが、調べるも何も、どこにどういう人が住んでいて、どこからどこへ向かって人が動いて、どんな時間帯にどこにどういう人がいるのか、それを把握していないと、何も調べられない。
 まずは、街を歩き回ることから始める。
 輿高校は住宅街に囲まれるように建っている。一軒家、アパート、マンションが継ぎ接ぎめいて立ち並ぶ。築年数は数十年を重ね、からへの変遷を伴って、今に至るまで時代を積み上げてきたという、確かな歴史を感じさせる町並み。大人はこれを懐かしいというのかもしれない。淑緒たちにとっては、古めかしい、時代に取り残されたような感覚のほうが強い。
 時間が止まっているのではない。
 時代に取り残されて、少しずつ風化していく。
 その風化の痕跡が、地層のように折り重なっている。
 ひび割れたアスファルト。色褪せたブロック塀。住む人間がいなくなってに覆われたアパート。
 その向かいに建つ、片側が借家になった二世帯住宅。築十年と経たずに値崩れした分譲マンション。
 象徴的な光景だ。人面犬だとか口裂け女みたいなじみた噂も、確かにこういう町でなら流れていそうに思える。噂には出所があるし、噂が流行るにはそれなりの土壌が必要になる。この町には、それだけのがあるのかもしれない。
 歩き回るうちに、日が傾いてきたのを感じる。時計を見る。午後六時を過ぎたところだった。もうじき日暮れどきだ。
 一時間以上は歩き回っていたらしい。思ったよりも時間が経っている。
 少し休憩を取ろうかと思ったそのときに、ふと、背中に声を掛けられた。
「あれっ? 依智くんじゃん」
 振り向いた先に立っていたのは、リードを手にした人影。リードの先には、やや大きめの動物——まあ、犬だろう——の、影。やや逆光気味だったけれども、そのはきはきとした口調は記憶にしっかり残っている。
「や。何してんの?」
「あー、日々井さん、で合ってるよね」
 近くに寄れば、はっきりと分かる。
 クラスメイトの日々井比奈だ。犬の散歩中だろうか。
「合ってる合ってる。で、なになに? なんか面白いことでもしてた?」
「べつに面白くはないかな。ちょっと散歩。ほら、引っ越してきたばっかりだから」
「この辺に住んでるの?」
「いや、読坂駅の方だけど」
「ふうん、新市街の方か。でも、こっちあんまり用ないでしょ」
「そうでもないんじゃない? 学校通うならこのへんは通るんだし」
「それもそっか」
「そっちは、犬の散歩?」
「うん、これから行くところなんだけど」
 ということは、この辺りに住んでるということか。
「随分とおとなしい犬だね」
 吠えることも、先を急かすこともなく、主人が散歩を再開するのを従順に待っている。随分落ち着いている。まるで、人間が何を考えているのか理解しているような。そんな聡明さが瞳に宿っているように見えた。
「おじいちゃんだからね。小さい頃から飼ってるし」
「へえ」
 犬は賢い動物だ。
 老犬なら、なおさらそうなのかもしれない。
「にしても、これから散歩って。この辺は物騒なんじゃなかったっけ?」
 そう忠告してきたのは、他でもない比奈だ。
「いいのいいの、あたしは近所に住んでるんだから」
「でも、この辺からも行方不明者出てるんでしょ」
「もしかして、心配してくれてる?」
「そりゃ、まあね」
「そ、そっか。心配してくれるんだ。今日会ったばっかりでも」
「そりゃクラスメイトだし。話しかけてくれた人間にそっけなくするほど俺は冷たくないんだけど」
「……はあ」
 あからさまにため息を吐かれる。
「ま、いいんだけどさ」
 全然よくなさそうに言ってから、一転して、
「それより、あたしの心配より、依智くんの方こそ、だよね。あんまり遅くならないうちに帰ったほうがいいよ」
 真面目な面持ちでそう告げる。
「こういうときって、女の人ほど気をつけろ!って言われるんだけどさ、こないだ行方不明になったの、この辺に住んでるサラリーマンのおじさんでさ。男とか女とか、関係ないんだよね、きっと」
「近くに住んでるの?」
「そんなに近くってわけじゃないけどね。でもまあ、何回か見かけたことあるから。ちょっと他人事じゃないよねって」
 その割には、随分と落ち着いてるように見える。
 が、それを指摘するのはやめておいたほうがいいだろう。内心でどう考えているかなんて分からない。もし不安を抱えているとして、それをえて突く必要なんてどこにもない。
「まあ、暗くならないうちに帰るよ。って、もう暗くなりはじめてるけど」
「そうだよ。早く帰りなよって」
 冗談めかして笑えるくらいには、余裕があるのかもしれない。
 少しは安心してよさそうだ。
「うん。まあ、心配してくれてありがとう」
「ど、どういたしまして。じゃ、また明日学校で」
 淑緒が礼を述べると、比奈は慌てた様子で、顔を背けながら早口に答えた。
 西日に照らされて、その横顔はオレンジに染まる。
 急いでいるのかもしれないし、引き止めても悪い。
「また明日」
 比奈に別れを告げ、輿駅の方へと歩き出す。


 まだ帰る時間ではない。
 もう一つ確かめておくことがある。
 住宅地を抜けると、旧市街の商店街。電器屋、服屋、靴屋、美容院、精肉店、生鮮店、鮮魚店、酒屋、大衆食堂、居酒屋、多種多様な店舗が軒を連ねる。そのうちのほとんどがシャッターが降ろしてしまっているものの、大衆食堂や精肉店には今もなお客が入っていて、店を畳むことなく続けることができている。
 旧市街と呼ばれるようになって、かつての活気を失ったとはいっても、まだ生きてはいるのだ。
 少なくとも、の間は。

 西の空を、町並みを、人々を、オレンジ色に染め上げながら、ビルの輪郭の向こう側に日が沈んでいく。
 影が伸びる。電柱の影が伸びる。立て看板の影が伸びる。家の、雑居ビルの、郵便ポストの、車止めの影が伸びる。町を行き交う人の姿が、伸びる影に呑まれて、

 視界がぐるぐると回る。
 宵闇の藍色と落陽の橙色が互いに溶けて混ざり合う。
 人の影と建物の影が混ざり合う。
 何もかもが混ざり合って

 
 普通とは異なる時間の流れに。

 視覚を取り戻し、ぼやけた視界が明瞭になっていく。そのとき目の前に広がっていたのは、人の気配がまるでない、ゴーストタウンの様相を呈する商店街の姿。

 ここが、

 現実の代わりに、非現実がする世界だ。

 確かめておくことというのは、虚時間の様子。
 噂が事件に関係しているのなら、虚時間には必ずその痕跡がある。
 虚時間に入ることができるのは、十代の少年少女に限られる。二十歳を過ぎて虚時間に入ったものは、二度と出られなくなる……と言われている。
 ただ、それは正確ではない。〈語り部〉ネットワークには、三十二歳の男性が自覚的に虚時間に入って、を迎えてという事例が記録されている。逆に、十代のうちから虚時間に一切入ることができなくなる人間もいる。
 これを〈語り部〉ネットワークでは〈適正〉を持たない人間と呼んでいる。〈語り部〉は任務の都合上、虚時間に入る必要がある。〈適正〉を持たなければ務まらない。だからほとんどの〈語り部〉が十代だ。
 虚時間に入れなくなった〈語り部〉は、知識や経験を活かして後方支援へと回る。“ゴドディン” で言えば、ドルイドがこれに当たる。
 “ニーベルング” や “ローラン” はどうか知らないが、“カルミナ・ブラーナ” の〈〉は一線を退くとアルキポエタを名乗って後方支援に回ると聞いたことがある。おそらくは、他のネットワークにも似たような仕組みがあるのだろう。

 虚時間は、異界だ。
 それは単に、普段過ごしているとは違う時間の流れを持っているからというだけではなく、純粋に異界である。
 ふと、視界の端に、影がよぎった。
 何かの影、とかではない。
〈影〉そのものだ。
 輪郭の定まらない、黒色の何か。ずるずると身体を引きずるようにして、人気のない商店街の路地を徘徊している。
 気味の悪い姿だ。
 目を背けたくなる。目を背けたくなるが、目を背けると何かよくないことが起きそうな不安感があって、目を離すことができない。
〈語り部〉はこれを〈影〉と呼んでいる。特に深い意味はない。見たそのままの名だ。見たそのままの名なので、虚時間に迷い込んだ〈語り部〉でない普通の人たちの間でも、この名前が定着している。
 見た目以上のことが分からなかったから、見たそのまま以上の名をつけられなかった。
〈影〉の正体は低級霊である。今ではそれくらいのことはもう分かっている。
 加えて、どこからともなく湧き出るが、やがて自然に消滅すること、特に害意はなく、危険はないこと、なども分かっている。
 しかし、取るに足らない程度の存在感という点で、見たままの名である〈影〉以上に適切な名前はなかったし、その頃には定着もしていたので、今日に至るまでずっとそのままの名で通用している。
〈影〉は無害だ。ただ、それは近付かなければの話。〈影〉は低級とはいえ霊には違いなく、例に漏れず、霊障の原因になる。
 霊障といっても、ごくごく些細なこと。気持ちが沈む。不安になる。悲しい。つらい。苦しい。そういう気持ちをほんの少しだけ喚起する。それだけだ。
 それだけのことでも、積み重なれば人の気を狂わせるに足る。
〈影〉の近くに寄ってはいけない。
 近付かない限りは危険はない。
〈影〉が路地の奥へと消えていくのを見送って、ふう、と息をつく。
 あからさまな安堵に苦笑する。さっきまでの不安感は〈影〉のせいなのかもしれない、と思う。
 虚時間では、こうした低級霊が徘徊している。
 異界というのは、そういうことだ。
 尋常ならざるものが存在しうる。
 それは決して低級霊に限らない。


 そして、今に至る。
 あのんが、ゆっくりと人面犬の方へと歩き出す。アスファルトに寝そべったままの淑緒の脇を通り過ぎるときに、くような声で尋ねてきた。
「もう起きられるんでしょう?」
 身体を起こす。呼吸も問題はなさそうだ。
 骨にも異常はない。どこも悪くない。そう確信できる。
「それがあなたの能力?」
「そうとも言えるけど、そうじゃないとも言える」
「曖昧ね」
「説明するのが難しいんだよ」
「まあ、後でいいわ。それより」
「まだ何かあるのか」
「あの犬。刀で斬ったのに、どうして傷ひとつないのかしらね」
 あのんの視線の先には、荒い息を吐く人面犬。
 ダメージを負っているようには見える。
 なのに、外傷らしいものはどこにも見当たらない。
 刀で斬られたのにもかかわらず。
 が。
「俺はあの犬より、七瀬がなんで日本刀なんか持ち歩いてるのかってことのほうが不思議だよ」
 普通の女子学生でなくても、日本刀を持ち歩いたりはしない。銃刀法は? 鞘も見当たらない。剥き身で持ち歩いているのか?
 どう考えても不自然だ。
「わたしが読んだ漫画では、珍しくなかったのだけれど」
「そりゃ漫画の話じゃ」
 いや。言葉を飲み込む。
 確かにこの状況は充分漫画じみてはいる。
「まあ、いいわ」
 あのんは会話を打ち切ると、刀を構える。
 でたらめな構えだったが、不思議と様になっている。
「斬れないなら、起き上がれなくなるまで打ち込むだけよ」
 あのんが一歩踏み出すよりも早く、人面犬が飛びかかる。迎え撃つように、手にした刀を振るう。
 袈裟懸けの斬り下ろし。逆袈裟の斬り上げ。斬り下ろし。斬り上げ。 夕闇に銀糸が舞う。
 そして、横薙ぎの斬り払い。
 三メートルを超える巨躯が軽々吹き飛び、鈍い音を立てて路地奥のブロック塀に身体を叩きつけられて、ゆっくりアスファルトの上にれる。
「まるで木刀で殴っているような感触ね」
 を上げるどころか、切り傷一つない。
 だが、人面犬はぐったりとアスファルトの上に横たわり、起き上がることができない。
 荒い息遣いだけが感じられる。
「しぶといけものだわ」
 対するあのんは涼しい顔をしている。
「さすがに頭を潰せば無事じゃないわよね?」
「あ、おい」
 呼び止めるも、あのんは構うことなく路地へと入り込み、人面犬へゆっくりと近付く。あのんが一歩踏み出すごとに、波が引くように〈影〉が建物の陰へと引き込まれていく。
 いやな予感がする。
「どうして止めるの? を倒す。噂を打ち消すあたらしい噂を打ち立てる。それがわたしたち〈語り部〉であり、でしょう?」
「それは、そうなんだが、なんか違和感があるんだよ。何って、はっきりしないんだけど」
「こいつに止めを差してから考えればいいわ」
 やがて、あのんは人面犬のところまで辿り着く。
 日本刀を振りす。
 商店街の路地裏から〈影〉が覗いている。
〈影〉に目はない。目はないのに、視線は感じる。〈影〉は確かにこちらをている。
 その〈影〉がどんどん、増えている。
 この不安感は、〈影〉のせいだろうか。
〈影〉にてられているだけだろうか。
 違う。
 そうじゃない。
 明確な気配。
「何か来る!」
 あのんが日本刀を振り下ろすのと、淑緒が叫ぶのと、ほぼ同時に。くらやみ色をした風が、雑居ビルの上からひび割れた路面へとれ落ちてくる!
 反射的に刀を振るうあのん。
 黒色のに銀閃が交錯する。
 金属同士がれ合う、不快な音が響く。
「あたしのペットをいじめてるのは、誰?」
 な声だった。
 老婆のようで、童女のようでもあり、乙女のようにも聞こえる。背は曲がり、だらりと下げた手には、刃渡りの大きな、湾曲したを持っている。
「おまえ?」
 あのんに向けて、無造作に鉈を振り下ろす!
 鉈と刀が打ち合って、金切り声を上げる。
 あのんは鉈を受け流すと、縦真一文字に懇親の一刀を放つ!
 が、鉈女は鉈を横薙ぎに振るい、弾き返す。
 勢いを殺すため、一度間合いを取るため、飛び退くあのん。
「ペットにはちゃんとリードを繋いでおきなさいよ」
 冗談めかすようなあのんの言葉には、しかし焦りの色がむ。感情のゆらぎ。それはそうだ。あのんだって、人間なのだから、動揺したりすることはあるだろう。
 鉈で日本刀ごと人間一人丸ごと押し返したのだ。並大抵のではない。鉈を手にした女は、あのんの言葉には答えることなく、
「それとも、おまえ?」
 そう言ってこちらを振り向く。
 乱れた髪は、夕日に照らされてオレンジ色に燃える。
 髪の間から覗く、落ちんだ瞳、その下にある口は、耳元まで大きく裂けている。
 そして、その身にうのは、どす赤く染まった、
「く、口裂け女——!!」
 思わず後ずさる。
〈影〉が騒がしい。
 こいつが来たからか……?
「おまえがあたしのかわいいペットをいじめたの?」
 ゾクリと。
 されただけで、背筋にが走る。
「ユルサナイ」
 足がむ。
 跳躍。口裂け女は路地を飛び出し、一気に間合いを詰め、淑緒に迫る。
 全く反応できなかった。
 死ぬ。
 死ぬのか?
 口裂け女が、鉈を振りす。
 色の刀身が、残光を受けてきらめく。
 振り下ろされるその一瞬。死を覚悟する間もなく、風が吹き、砂埃を巻き上げ、甲高い音を上げ、火花が散る。それらすべて一瞬のうちに起こった。
 淑緒と口裂け女との間に、あのんの背中がある。
「自分の身くらい、自分で守ってほしいものね」
 その声には焦燥が感じ取れるが、表情はこちらからは見えない。
 しかし、右腕からは、赤いものがっていた。
 血だ。
「七瀬……お前……その手……!」
「大丈夫だから」
 短く、けれども確かな口調で、淑緒の言葉を遮ると、刀を振るう。
 刀を振るって、鉈を弾き返す。
 カン、カンと。
 ただ淡々と鉈を弾き返すあのんを見て、淑緒も我に返り、後方へ下がる。視線を巡らせ、アスファルトに転がる護身用ロッドを——見つけた。
 あのんが間に立ってくれている間に、を拾い上げる。口裂け女にその動きを気取られないように、慎重に、だ。動き出す前に、もう一度あのんの様子をう。
 カン、カァンと。
 金属同士が打ち合う音が響く。
 振るわれる鉈に、呼応するように刀を打ち込む。
 刀を打ち合う中で、不意にあのんが言う。

 虚時間では、時間の流れは一定でない。
 虚時間に入り込んでから、結構経つはずだ。現実の時間の流れなら、とっくに夜になっている。
 だが、日が沈んでから一向に暗くならない。
 おかしいと言えばおかしい。おかしなことがまかり通るのが虚時間ではあるのだが。
 あのんが続ける。

 言って、鉈を弾き返し、口裂け女が後方へと飛び退く。

 あのんの言葉に頷くと、
「あたしのペットをいじめたやつは、絶対に許さないけれど」
 そう言って鉈を降ろし、
「今日のところは、見逃してあげる。あの子も無事に逃げられたみたいだし」
 後方へ、飛んだ。
 そうして、影に溶けていく。
 いつの間にか人面犬の姿もなかった。あんなにボロボロになっていたのに、だ。いや。
 は虚時間の終わりが近付けば、いつだって退場できる。つまりは、虚時間の終わりが近いということ。
 日が沈みきって、西の空に残る薄明かりさえも闇に溶けて。そして視界がくらやみの色に溶けていく。

 虚時間が、終わる。

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