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雨と紅茶とルーブ・ゴールドバーグ・マシン

エピローグ

「ケロスケくんは、やればできるタイプだよね」
「知ってますか、それ褒め言葉じゃないんですよ」
「そうだね。ケロスケくんは、やらないものね」
「うぐ」


 あれからどうなったかというと。
 べつにどうもなっていないのだけど。
 正確には、どうもならないように、ひとつ、手を打ってみた。
「今年の文化祭で、コンピュータ研にはできない成果を挙げます」
 だから、情報科学研究部を統廃合の対象から外してください、と。
 生徒会の皆さまに頭を下げにいった。
 眼鏡をかけた、真面目そうで、それでいて人当たりのよさそうな、温厚な面持ちの男子生徒が出てきた。生徒会長だ。
「検討するとは言ったけど、そんなにすぐに大々的にやるっていうわけじゃなくてだねー。うーん、まあ、情科研は長い歴史もあるし、にはできないよねー」
 隣の女子生徒が口を挟む。たぶん副会長だろう、知的な雰囲気の人だ。
「むしろコンピュータ研のほうをなんとかしたいですね。会長、どうします? もともとあの教室って、情科研のものだったって聞いてるんですけど」
「あ、いえ、べつにコンピュータ室が使いたいわけじゃないんです。っていうかあの部室じゃないとだめなんです」
「なるほど、そうだね、代替不可能なものもあるよねー」
「はい。だから、あのままの形で残していきたいんです。せめて、先輩が卒業するまでは」
「ああ、だったら」
 生徒会長と、副会長、ふたりは顔を見合わせて。
「心配しなくても、早くても来年度からだよ」
「で、霧原は、受験生ですから。あの方の成績なら年度末まで部室にいても平気そうですけど」
「え?」
「あれ、知らなかったの? 情科研の部長さんは、今年三年生だよ。ぼくらより上だねー」
「え、二年生じゃなくて?」
「うん」
 小柄だからずっと二年生だと思ってた……。
「まあでも」
「せっかくですから、文化祭の発表、ぜひ頑張ってくださいね」
「来年以降の存続は、きみにかかってるよー」
「え……」


 そういうわけで、ぼくは部の存続のために、霧原先輩からプログラミングを教わっている。
 先輩、いつだったか「誰にでも書けるコードだよ」なんて言ってたけど。
 こんなコード誰にでも書けるわけがない。
「見れば書けるよね。最初は写経からだよ。わたしも叔父さんにそうやって教わった」
 なんていう。
 まあ、いいんだけどね。
 先輩と一緒にいられるし。
 ……ぼくと先輩の関係性は、相変わらずだ。変わったのは、ぼくが部長から先輩って呼ぶようになっただけ。
 なんとなく、部長って言うのはよそよそしいな、と思ったから、というだけだけど。
 それに。
 ぼくが部長を引き継ぐつもりでもあったし。
 いつまでも甘えっぱなしというわけにもいかないかな、なんて。
 一人前になるには、まだまだ道は長いけれど。
 そう。
 まさに、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンみたいに。

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